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黄砂と喘息

黄砂は紀元前1150年頃の中国の歴史書において『塵雨』として記載され、太古から観測される気象現象です。その起源は中国大陸内陸部の砂漠や黄土地帯などの土壌ですが、健康影響は長く指摘されてきませんでした。2000年代に黄砂の頻度および飛散量が増加したことに加え、中国の著しい経済発展に伴い東アジア地域の大気汚染が急速に悪化したため、黄砂による健康影響が懸念されるようになり、実際に喘息を含めた健康影響が報告されるようになりました。
同じ頃に注目されるようになったPM2.5も黄砂と同様に視程を低下させますが、PM2.5などの微小粒子によって視程が低下する現象は「煙霧」と呼ばれます。黄砂と煙霧は異なる気象現象ですが、見た目が似ているため混同されることも多く、黄砂による健康影響を評価する際には両者を区別することが重要です。

黄砂の喘息への影響

黄砂と喘息の関係について、2000年代になり台湾、韓国から、日本では2010年以降に報告がされるようになりました。黄砂は喘息の入院リスクを増加させ、呼吸機能低下や症状悪化の原因となることが示されています。私たちも、成人喘息患者が黄砂時に喘息症状が悪化し、呼吸機能も低下すること、さらには喘息の特徴的所見である好酸球性気道炎症が増悪することを報告してきました。

砂塵の吸入と喘息

そもそも砂塵を吸い込むことで喘息は悪化するのでしょうか。インドから興味深い研究が報告されています。この研究では、インドの砂嵐が発生しやすい3つの地域から、4種類の土壌(ガンガナガルの粘土、ビカネールの砂、ジャイプールの砂、ガンガナガルの砂)を用い、喘息患者に模擬的な砂嵐を吸入させて呼吸機能の変化を調べています。模擬的な砂嵐の砂塵量は、日本で観測される黄砂のおおよそ10倍から20倍の量に相当します。このような条件ではありますが、喘息患者が砂塵を吸入すると1秒間に吐く息の量がおおよそ300㏄から700㏄低下することが確認されました。また、粒径が小さく、粘調度が高い土壌ほど影響が強いことも明らかにされました。このように、砂塵を吸うことにより喘息が悪化することは十分に考えられます。

単なる砂ではない黄砂

実際の黄砂は単なる砂ではありません。黄砂は日本へ到達するまでの間に、大気汚染物質、細菌、カビなどさまざまな物質を取り込みながら移動します。私たちの研究でも、大気汚染物質やカビの付着が多い黄砂のほうが、より喘息を悪化させやすい可能性があることを報告してきました。したがって、黄砂による健康影響を考える際には、単なる土壌粒子としてではなく、大気汚染物質や微生物などが付着した複合粒子として理解する必要があります。

花粉との関係

黄砂が飛来する時期とスギ花粉が飛散する時期が重なることも多くあります。黄砂が多い時には雨水のpHが上昇し、それによりスギ花粉が破裂しやすくなることが報告されています。その結果、大気中のスギ花粉アレルゲンの濃度が高まり、喘息や花粉症の症状が悪化しやすくなる可能性が指摘されています。

黄砂への対策

このように黄砂は喘息を悪化させるのですが、どのように対策をしたら良いのでしょうか。私たちは研究を続けることで、その方法を少しずつ見いだして来ました。まず、日本の黄砂で喘息が悪化する患者の割合は 10%~20%です。では、どのような患者さんが悪化しやすいのでしょうか。第一には、喘息が治療によって十分にコントロールされていないことです。次にアレルギー性鼻炎を合併している患者さんで黄砂の影響が強くなります。まず重要なことは、喘息の治療をきちんと受けてコントロールを良好に保つことです。喘息患者の6割から8割で鼻炎の合併があることも分かっています。鼻炎の合併があれば鼻炎の治療もきちんと受けていただくことが重要です。
動物実験ではありますが、私たちは抗コリン作用を持つ喘息治療用の吸入薬が、黄砂によるアレルギーを介さない炎症を抑制することを確認しております。そのような治療薬も有用である可能性があります。そしてなにより、黄砂の影響が強い方は外出を控える、マスクを着用するなどの基本的な対応もとても大切になります。

おわりに

黄砂と喘息の関係を正しく理解し、いたずらに恐れるのではなく、適切な対応を行うことが重要です。黄砂の時期でも、適切な治療と対策により普段と変わらない生活を送ることが可能です。私たち元町病院では、黄砂と喘息の関係について研究を行いながら診療に取り組んでいます。お気軽にご相談ください。
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